工場の熱中症対策を行う際に知っておきたいのが、暑さ指数となる「WBGT」です。ここでは、WBGTとはどんな指標なのか?その重要性、計測方法などをご紹介します。
WBGTは「Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)」の略で、熱中症を予防するための暑さ指数のこと。熱中症を引き起こす条件には、「気温が高い」「湿度が高い」といった環境条件のほか、体調不良など身体の条件、屋外で長時間作業する、といった行動の条件があります。これらの条件のもと、身体から熱が放出されにくくなることで熱中症を引き起こします。
WBGTは「気温」「湿度」に加えて「気流」「輻射熱(=遠赤外線の熱線によって直接伝わる熱)」にも着目した指標であり、日常生活はもちろん、職場での熱中症リスクを判断する数値としても広く活用されています。
環境省の熱中症予防情報サイトでは「日常生活における指針」と「運動に関する指針」「作業者に関する指針」という3つに分けて解説しています。
例えば、「日常生活における指針」では、25℃未満は「注意」。一般的に危険性は少ないものの、激しい運動や重労働をする際に熱中症を発症する危険があります。25~28℃は「警戒」、28~31℃は「厳重警戒」、31℃以上は「危険」。外出はなるべく避け、涼しい室内で過ごすことが推奨されています。
WBGTの活用については、前述の環境省をはじめ、厚生労働省・消防庁・気象庁といった各省庁、各地方自治体も呼びかけていますが、工場の安全・衛生管理という観点でチェックおきたいのが厚生労働省からの情報発信。厚生労働省の特設サイト(https://neccyusho.mhlw.go.jp/heat_index/)では、ただ、現場のWBGT値を測定するだけではなく、身体作業の強度・作業服の熱特性といった熱特性も考慮すべきだと呼びかけています。
実際、工場という職場環境は作業によって求められる身体的な負荷が大きく異なりますし、現場によっては防護服や衛生服を着用しなければいけないケースもあり、作業内容・環境によって熱中症の発症リスクも変わってきます。
厚生労働省では「作業ごとの身体作業強度」を0~4(安静~極高代謝率)の五段階に分けてWBGT基準値を設定。「衣服の種類による補正」については、通常の作業服については加味する必要がありませんが(着衣補正値は0)、例えば「単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服」なら着衣補正値は2、「織物の衣服を二重に着用した場合」は3、「フードなしの単層の不透湿つなぎ服」なら10といった具合に、特殊な衣服についての補正値が細かく設定されています。
詳細については、厚生労働省の特設サイト厚生労働省の特設サイト(https://neccyusho.mhlw.go.jp/heat_index/)を確認してみると良いでしょう。
工場など屋内におけるWBGTの値は、次のような計算式で算出されています。
ここにある「湿球温度」とは、水で湿らせたガーゼを温度計の球部に巻いて観測した温度のこと。「黒球温度」は、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度計を入れて観測した温度のことを指します。これらは市販のWBGT測定器を使えば、対応は可能です。
下記は、日本生気象学会が発表している室内用WBGT簡易推定図です。こちらを参考にぜひ自社工場がどの温度基準域に相当するのか、確認してみてください。
WBGTとは「暑さ指数」のことであり、職場の熱中症リスクを把握するための指標です。日本生気象学会が発表している室内用WBGT簡易推定図を参考にしつつ、自社の工場がどの温度基準域に相当するのか、まず確認してみてください。市販のものでも測定可能ですが、JIS規格の測定器を使うと良いでしょう。
WBGT値を把握した後はどのような熱中症対策を実施すべきか、具体的に考えていきましょう。下記のページでは食品工場、化学工場、溶接現場、塗装ブースなど、現場ごとに実際導入された事例を紹介していますので、工場の熱中対策でお困りの方はぜひチェックしてみてください。
「大空間であっても個人を十分に冷却できる」という熱中症対策の新たなソリューションとして注目を集めているのがチラー水冷式身体冷却システム「COOLEX」。7~20℃の冷水をホース通して専用ウェア内に循環させ、酷暑現場であっても防護服を着ていても作業者個人をしっかり冷却します。同時に複数人を冷却できるシリーズ「COOLEX Multi」もラインナップ。当調査チームはこの「COOLEX」に注目し、商品の詳細や実際の導入事例について取材してみました。
インストラクター
健康管理士一般指導員
<資格番号H-301775>
(株式会社鎌倉製作所
COOLEX事業部)
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WBGT値は、温熱4条件(「気温」「湿度」「気流」「輻射熱」)を考慮に入れた値です。特に重要視されているのが湿度の影響。これはヒトの発汗および汗の気化作用による冷却が体温調節機能にとって、非常に大きな役割を担っているためです。
気化作用は、空気が乾燥しているほどその冷却効果が高く、反対に湿度が高いとほとんど気化しないため、発汗による冷却効果は見込めなくなってしまいます。言い換えると、湿度、気温ともに高い環境では、体温が下がりにくく、結果として体内に熱がたまりやすいことから、熱中症リスクが高い環境といえます。
「気温」だけを測る温度計では、この「湿度」の部分を正確に把握することができないため、熱中症リスクを正確に把握することができません。また、環境省が夏になると発表しているWBGT値も、必ずしも現場の状況を反映しているとは言えないため、参考とすることはできても、その数値に基づいて対策を行うのでは、万全とは言えません。
以上のことから、作業環境の状態を把握するには実際の現場でWBGT値を確認しながら、対策を講じる必要があります。WBGTによる暑熱現場の把握は、熱中症対策としてよく知られた方法であり、WBGT計測器も市場に多く流通しているため、取り組みやすい方法といえます。ただし、WBGT計測器には簡易的な製品も少なくないことから、JIS規格にあった計測器を使用することをおすすめします。
最近では、IoT化もすすみ、現場のWBGT値だけでなく、作業者の核心温、心拍数といった生体情報をリアルタイムで計測できるシステムも開発されており、熱中症をはじめとする労働災害予防の対策は今後一層進んでいくものと思われます。